これまで、約40年近く業務向けシステムに携わってきた経験から申し上げますと、IT導入の前に業務整理をしない会社は、残念ながら「必ず行き詰まる」ことになりました。そのため最初に結論をお伝えします。

システムは業務の混乱を解決しない

なぜITを入れても楽にならないのか

ほとんどの社長や経営層、IT導入担当に任命された方々は、「ITを入れれば業務が楽になる」。そう考えて導入を進めたはずです。でも、実際に導入してみると

  • 現場の負担が減らない(減っているように感じられない)
  • 社内から問い合わせが増えた(社内IT担当者の声です)
  • 結局、Excelに戻っている(部長や課長の声)

こうした状態に心当たりはないでしょうか。

この状態、まわりからは「IT導入そのもの」「導入したツール」の問題だと言われますが、どちらの問題でもありません。

問題の原因は「IT導入の前に“業務整理”をしていないこと」です。

ということで、なぜ業務整理をしないままITを導入すると、ほぼ例外なく行き詰まるのかを整理します。

業務整理は「効率化」の話ではありません

よくある誤解を一つ。多くの人が「業務整理」というと

  • 業務を減らす
  • 無駄を省く
  • 効率化する

といった話を想像されます。しかし、業務整理の本質はそこではありません。

業務整理とは、「今、何が起きているかを把握できる状態を作ること」です。

  • 誰が
  • いつ
  • どのような判断で
  • 次に何をしているのか

こう書くとシンプルなことですが、これを説明できない状態でITを入れても仕組みは機能しません。

機能しない理由

理由①|整理されていない業務は、そのまま固定化される

IT導入は業務を “整理してくれる” ものではありません。今ある業務を、そのまま固める行為です。

  • 人によって違うやり方
  • 暗黙の判断(社内ルールとも言います)
  • 例外だらけの処理(担当者レベルのルールで運用)

これらを整理しないままシステム化すると、

  • 理解できる人が限られる(というか少数しか存在しない)
  • 改善できない(全体を理解している人が不在)
  • 変更しづらい(どのように変更すれば良いのか判断できない)

という状態が生み出されます。結果として、「業務を変えたくても変えられないシステム」になります。

理由②|「誰のためのITか」が分からなくなる

業務整理をせずにIT導入を進めると、必ず起きることがあります。

このシステムは、誰のために入れたのか?

  • 現場のため?
  • 管理のため?
  • 経営判断のため?

目的が曖昧なまま進めると、

  • 現場は使いづらい
  • 管理はデータが取れない
  • 経営は状況が見えない

こういう状態になり、誰も満足しない(誰のためでもない)IT導入になります。

業務整理は、「誰の困りごとを解決するのか」を決める作業でもあります。

理由③|例外対応が増え続ける

整理されていない業務には、必ず多くの例外があるという注目するべきポイントがあります。

  • 特定の取引先だけ違う(あるある)
  • この案件だけ特別(なぜか無くならない)
  • 忙しいときは別のやり方(どこの作業を飛ばした?)

これらを言語化せずにIT導入すると、導入後に必ずこう言われます。

  • 作業担当者:このケースはどうするの?
  • 社内IT担当:それは想定外です、ベンダー相談します
  • ベンダー:追加対応になります

結果として、

  • 仕様が膨らむ
  • コストが増える
  • 現場が疲弊する

IT導入が、新しいトラブルの発生源になります。これ、悲しいです。

理由④|改善の判断ができなくなる

業務整理をしていないと、導入後の判断ができません。よくあるのが

  • どこが良くなったのか
  • 何が変わっていないのか
  • 次にどこを直すべきか

最初に判断した基準がないため、

  • 何となく使い続ける
  • 大きく変えるのが怖い
  • 良くなったのかわからないので良くないところを見つけられない

という状態になります。

ITは本来、少しずつ改善していくものです。そのための判断基準を作るために、業務整理はやっておくと良い作業です。

業務整理をしている会社は、IT導入が楽になる

一方で、業務整理ができている会社は、

  • IT導入の検討が早い
  • ベンダーとの会話が噛み合う
  • 小さく始められる

共通して、IT導入を軽やかに進めていきます。

理由は、「まず整理して、必要なところだけ入れる」この順番ができているからです。

業務整理は、完璧である必要はない

誤解されがちですが、業務整理は完璧である必要はありません。私の体感的には

  • 7割分かっていれば十分(3割残っていることが見えていればヨシ!)
  • 例外が残っていてもいい(残っていることがわかっていればOK)
  • 後から見直せばいい(という視点)

重要なのは、「分からない状態のまま進まないこと」です。

IT導入が詰むかどうかは、前段で決まっている

IT導入で行き詰まる会社には、共通点があります。これは経験から知っています。

  • 業務を整理しなかった
  • 判断を急いだ
  • ツールやシステムに期待しすぎた

ITは、業務を救ってくれる存在ではありません。業務整理もやってくれません。ITは業務を鏡のように映してくれるモノと言えます。

ということは、整理されていない業務は、そのまま整理されていない姿で映ります。

さいごに

もし今、

  • IT導入を検討している
  • すでに導入したが違和感がある
  • このまま進めていいのか迷っている

こんな状態であれば、一度立ち止まって業務を見直す価値はあります。

ツールやシステムを選ぶ前に、判断できる状態を作る。

それが、IT導入で行き詰まらないための、最も確実な方法です。